贈与による節税対策、最初はこれから始めましょう

 

生前贈与の目的は、相続財産つまり死後に渡される財産のいくらかを、あらかじめ生前に渡しておくことで、相続財産を減らし、それによって相続税を減らすことにあります。

 

ただし、生前贈与はただ財産を渡せばよいというものではありません。生前贈与をした分は相続税の対象から外れる一方、贈与税の対象となるからです(贈与した金額が110万円を超える場合)。相続税を減らした金額以上に贈与税を払うことになっては、「節税」にはなりません。

 

ですので、贈与による節税は、以下の関係が成り立つように贈与を行う必要があります。

 

贈与によって減らすことができる将来の相続税額 > 贈与を行うことによって支払う贈与税額

 

贈与による節税はこれが基本です。

ではどうやってこの関係が成り立つような贈与を計画すればよいでしょうか。

次の手順で行っていきます。

 

 ①相続税の概算を試算しましょう

 ②相続税の試算結果から、相続税の税率の把握しましょう

 ③相続税の税率(増減割合)を下回る贈与金額を決定しましょう

 

①贈与税の概算を試算しましょう

 

あるご家族の例でご説明します。父の相続税の試算をします。

家族構成は父、母、子供2人の4人家族です。

父が亡くなった時の相続人は、3人になりますね。

財産は自宅土地が6000万円、自宅建物が2000万円、預金の残高が6000万円あったとします。

 

この場合の相続税は次のように計算します。

 

A. 相続財産の合計額=6000万円+2000万円+6000万円=1億4000万円

B. 相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×3人(相続人の数)=4800万円

C. 相続税の対象=A-B=9200万円

D. 相続税の総額

 a. D × 1/2 × 20%-200万円=720万円

 b. (D × 1/4 × 15%-50万円)× 2人=590万円

 c. a + b=1310万円

 

このご家族の、父が亡くなった場合の相続税は1310万円になります。

※説明を単純にするために、母は財産を取得しないものとして計算しています。

 

②相続税の試算結果から、相続税の税率の把握しましょう

 

上記①の相続税の試算結果から、相続税の実質的な税率(増減割合)を把握します。

ここで言う「相続税の実質的な税率(増減割合)」は、父の財産が増えたり減ったりした場合の相続税の増減割合のことを言います。

上記①の「D. 相続税の総額」の中のaの式の税率(20%)とbの式の税率(15%)の平均がこの「増減割合」になります。この場合は、20%と15%の平均である17.5%が相続税の実質的な税率(増減割合)になります。

 

従いまして、父の財産が例えば100万円減った場合には、相続税はその17.5%の17万5千円減ることになります。

 

例えば財産が400万円減った場合には、相続税はその17.5%の70万円が減ることになります。

 

③相続税の税率(減額割合)を下回る贈与金額を決定しましょう

 

ここで、父が子供2人に贈与をすることを考えてみます。

贈与税の計算方法については、こちら(通常の贈与税(暦年課税贈与)の計算方法~110万円以下の贈与は非課税~)で詳しくご説明してますので、ご不安な方はおさらいをしてみてください。

 

■子供2人に110万円ずつ贈与した場合

 

この場合、贈与する金額が1人当たり110万円以下ですので、贈与税はかかりません。

110万円×2人の220万円、父の財産が減ることになります。

この場合の相続税の節税額は次の通りです。

 

220万円×17.5%(相続税の減額割合)=38万5千円

 

子供2人への同額の贈与を5年続けた場合、

 

38万5千円×5年=192万5千円

 

相続税が節税できることになります。

 

■子供2人に300万円ずつ贈与した場合

 

この場合、贈与する金額が1人当たり110万円を超えるので、贈与税がかかります。贈与税の計算は、下記の税率表を参照しながら行います。

 

<贈与税の計算>

1人当たりの贈与税=(300万円-110万円)× 10%=19万円

2人分の贈与税合計=19万円×2人=38万円

 

基礎控除(110万円)後の

課税価格

税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

<相続税の減少額>

財産の減少額=300万円×2人分=600万円

相続税の減少額=600万円×17.5%=105万円

 

<トータルの節税額>

105万円-38万円=67万円

 

結果として67万円の節税ができることになります。

先ほどの、110万円を贈与した場合の一年当りの節税額が38万5千円でしたので、少し贈与税を払ってでも、大きな金額(300万円)を贈与した方が、大きく節税できることがお分かりいただけるかと思います。

 

子供2人への同額の贈与を5年続けた場合、節税額はより大きくなります。

 

<贈与税の計算>

一年当り2人分の贈与税合計=19万円×2人=38万円

贈与税の5年分合計=38万円×5年=190万円

 

<相続税の減少額>

財産の減少額=300万円×2人分×5年=3000万円

相続税の減少額=3000万円×17.5%=525万円

 

<トータルの節税額>

525万円-190万円=335万円

 

5年間で合計335万円の節税ができることになります。

110万円の贈与を5年間続けた場合の節税額が192万5千円でしたので、節税効果の差は歴然ですね。

 

■まとめ ~「相続税の減額割合を下回る贈与」とは?~

 

相続税の実質的な税率=減額割合は17.5%でした。

贈与を行うことで節税をするためには、この17.5%を下回る税率で贈与を行うことが必要になります。具体的には、贈与税の税率表における税率表で言うところの15%より下の金額になります(税率表の色付け部分)。

 

基礎控除(110万円)後の

課税価格

税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

また、17.5%を下回る税率であれば、贈与金額が大きければ大きいほど、節税効果は大きくなります。今回のケースで言えば、1人当たり(1年当り)510万円(400万円+110万円)の贈与が最も大きく節税ができることになります。

 

最後のおさらいです。

繰り返しですが、贈与による節税は、以下の関係が成り立つように贈与を行う必要があります。

 

贈与によって相続税を減らした金額 > 贈与を行うことによって支払う贈与税額

 

次の手順で贈与する金額を計算してください。

 

 ①相続税の概算を試算しましょう

 ②相続税の試算結果から、相続税の税率の把握しましょう

 ③相続税の税率(増減割合)を下回る贈与金額を決定しましょう